「写真を撮る」という行為は「今ここ」を感じて切り取る、マインドフルネスな行為。この連載では、そんなふうにマインドフルネスに生み出された写真とその写真にまつわるストーリーをご紹介しています。
「さよちゃんが帰っちゃうんだよね、広島に」
撮影の依頼を受けたのは、3月上旬のことだった。春は暖かく穏やかなだけでなく、わずかに混ざるビターな香りが胸の奥底をかすめてゆく。依頼を切り出す寂しげな口調に、幾年月も使い古された言葉が頭をよぎった。
そう、3月は別れの季節なのだ。どんなにデジタルが進んでも、離れ行く友人を名残惜しく思う気持ちはきっと変わらない。
大人になったら親友は作れない。そんなこと、一体誰が言ったのだろう。ファインダーごしに繰り広げられる二人の日常は無邪気で、自然で、まるで幼い時から一緒に育った仲の良い姉妹のようだった。
清々しく晴れた東京駅には、撮影にはとても不向きな強風が吹き荒れていた。全身で向かい風を受けながら、じゃれるように笑い声を上げる二人。
突然、二人はカメラに背を向けるようにくるりと反転した。そして100年にもわたり旅の起点を象徴し続けてきた赤い煉瓦に向かって、大きく手を広げる。
その瞬間、向かい風は彼女たちの背中を強烈に後押しする追い風へと変わった。
三宅弘晃
キャリアコンサルタントカメラマン
キャリア心理学を応用し、その人の魅力あふれるポートレート撮影を行なっております。活動テーマは「モヤモヤを、イキイキに。」