都会の古民家にて、新しきを思う。-三宅弘晃-

「写真を撮る」という行為は「今ここ」を感じて切り取る、マインドフルネスな行為。この連載では、そんなふうにマインドフルネスに生み出された写真とその写真にまつわるストーリーをご紹介しています。

縁側に腰掛け、素足を庭に投げ出す。撮影に望む青年実業家の緊張は瞬く間にほぐれ、まるでここが、彼の生家であるかのような錯覚を覚えた。

 「古民家で撮影をしてほしい。」
 遠山直さんからそんな依頼が舞い込んだのは、4月半ばのことだった。
 聞けば古民家を現代風に活用するビジネスの計画のみならず、ゆくゆくは自らもそこに身を置く構想があるらしい。そんな青写真を、現社員のみならず未来の仲間たちに伝えたい。それが、この不思議な依頼の背景だった。

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 小石川大正住宅・根木邸。築100年を超えるこの建物は、関東大震災や東京大空襲も経験した。
 「家全体が傾いていましてね。カメラマンからは水平が取りにくいってよく言われるんですよ。」 そう話すのは、この家の主である根木夫妻である。山の手らしい上品な印象をまとう、素敵なご夫婦だ。
 
 見上げれば、目の前には高層マンションがそびえている。その先の空は狭く、そして遠い。夏の真昼以外の日差しを遮る巨壁をぼんやりと見上げながら、僕は根木夫妻からいただいた豆大福をほおばった。素朴で甘い味わいが口の中に広がる。古き良き温かさが、この家には確かに存在していた。

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 遠山さんは語る。
 「古民家には、新しい発想を刺激する力があると思うんです。」
 思えば、彼の経営する会社の名前「IRODORI」にも、どことなく古めかしさと新しさが共存しているように感じる。
 古きをたずねて新しきを知る。そんな生き方を追求する彼だからこそ、「古民家」という場に引き寄せられたのはおそらく必然なのだろう。

 自らに変革を促すべく、フィットネスコンテストへのチャレンジを自らに課した遠山さんは、直近のわずか3ヶ月で13キロもの減量に成功した。
 武士のようなストイックさを秘めながらIT業界で夢を語るその姿は、さながら大都会で存在感を発揮する、古く、そして新しい大正建築のようだった。

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三宅弘晃
キャリアコンサルタントカメラマン
キャリア心理学を応用し、その人の魅力あふれるポートレート撮影を行なっております。活動テーマは「モヤモヤを、イキイキに。」

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