「写真を撮る」という行為は「今ここ」を感じて切り取る、マインドフルネスな行為。この連載では、そんなふうにマインドフルネスに生み出された写真とその写真にまつわるストーリーをご紹介しています。
高層ホテルのレストラン。ぼんやりと夜景を眺めながら、僕は希代のスーパースターに思いを馳せていた。
ここから見える明かりのひとつひとつに人間がいて、それぞれの営みがある。そして、その明かりの中にいる人々は、おそらく例外なくキムタクのことを知っている。しかしキムタクはその明かりひとつひとつを知るわけもなく、ただ直立し、燦然と輝いている。
ふと思う。
キムタクにとってこの夜景は、どんな風に見えるんだろう。
ただの夜景に見えるのかな。いやいやもしかしたら、「この世界は自分のものだ」と思うかもしれない。
そんなことを考えていると、星も見えない夜空ノムコウに巨大なキムタクが降りてきた。キムタクは両手を拡げ、ビルの群れを手中に収めながらこちらを見下ろしている。キムタクにとっては僕もまた、夜景の中の小さな明かりのひとつだ。
「この魚、おいしいね」
ふいに呼びかけられ、我に返った。
「うん、確かにおいしい」
そう応えながら、同じ魚を口に運ぶ。
舌の上でホロホロとほぐれる白身魚の感触を味わいながら、改めて窓の外を眺める。先ほどまで空を覆っていたキムタクは姿を消し、見渡す限り人々の明かりが続いていた。
さらに思う。
僕の事を知っているのは、この明かりの何万分の一だろうか。けどその明かりは、多分この夜景よりももっと近くにあって、温かく、心強い。
キムタクへの憧れも悪くないけど、いま向き合うべき明かりは窓の外には無いよな。ひねった姿勢を改めて正すと、僕は残りの白身魚を口に放り込んだ。
三宅弘晃
キャリアコンサルタントカメラマン
キャリア心理学を応用し、その人の魅力あふれるポートレート撮影を行なっております。活動テーマは「モヤモヤを、イキイキに。」