「写真を撮る」という行為は「今ここ」を感じて切り取る、マインドフルネスな行為。この連載では、そんなふうにマインドフルネスに生み出された写真とその写真にまつわるストーリーをご紹介しています。
その日は、よく晴れた日だった。昼下がりの光が照らす庭からは、鳥の囀りだけが聞こえてくる。
白い服を着た金髪の少女は、お屋敷の窓辺で庭を眺め、つまらなそうに頬杖をついていた。
「退屈ね…」
毎日の大部分をお屋敷で過ごす少女は、いつも退屈。今日みたいな日曜日の午後の、この気だるい雰囲気はとくに苦手だ。
庭を眺めていると、ふと、庭に咲いた赤い薔薇たちが目についた。少女は花には興味がないから、庭師さんたちが手入れしてくれるのを眺めるだけで、あまり近くで花を見たことはない。けれど、なんとなく今日は、庭へおりてみることにした。
さく、さく…と音を立てながら、昼下がりの庭へと入ってゆく歩。
薔薇の木で囲まれた庭は、外の景色を遮って、なんだか少女だけが別の世界へ紛れ込んだみたいだ。
そんな想像をして少しだけ楽しくなってきた少女が庭の奥へと進むたび、木漏れ日が髪を照らして、キラリキラリと輝く。
ふと、少女は一輪の薔薇の花に目を止めた。
揺れる木漏れ日に照らされた薔薇。
風の囁き。
まるでそこだけ、時間が止まっているみたい。
しばし、歩みを止めて、その時間の中に身を置いた。
どのくらい時間が経っただろう。風の音でふと我に帰った少女はこう思った。
「こんな身近に、こんな素敵な時間があったんだ。まだまだわたし、この世界には、知らない美しさがあるのかな…」
この日からちょっとだけ、少女にとって世界は面白いものになったのだった。
==
この写真を撮影&レタッチしていたら、金髪の少女が昼下がりのお庭でお散歩中に見つけた景色、というようなイメージが湧いてきたので、浮かんできた場面をもとに、物語を書いてみました◡̈
わたなべさき
わたなべさき
会社員/フォトグラファー
雨の日にテンションが上がる人。
みんなが本当の想いを生き、心を震わせあう世界をつくりたいと思っています。