この連載は、マインドフルネス実践者が、マインドフルネスに出会い、どう人生が変わったのかを綴るエッセイです。
今回は、現在マインドフルネストレーナーとして活動している小田 和加奈さんのストーリーを前・後編でお届けします。
*前編はこちら
私は、今を生きていない
その後、少しずつですが長女にもできることが増えていき、次第に私の心は安らぎを取り戻していきました。しかし、子育てに対する不安が無くなった訳ではありません。長女の周りにいる同年代の子を見渡すと、彼女のできないところばかりが目についてしまいました。
「このままでは、この子の将来はどうなってしまうのだろう」という不安からも、時折ソワソワした感覚が私を襲ってきたのをよく覚えています。「自立」とは、何でも自分でできることだと思い込み、本当の意味での自立について考える余地も、またきっかけもありませんでした。
長女が小学校へ上がり、私の精神状態がいよいよ落ちてしまった2018年末。私は思い切って、心理士の友人を訪ねました。子育ての不安を吐き出し、何か私の助けになるものがあれば教えてほしいと尋ねたところ、ある言葉を伝えてくれたのです。
それが、「マインドフルネス」でした。
…マインドフルネスって、何だろう?病気の治療法?初めてその言葉を聞いた私は、何も分からないままスマホでメモを取りました。そして、すぐにマインドフルネスの書籍を購入して読んでみました。そこには、衝撃的な言葉が綴られていたのです。
ほとんどの瞬間、私たちの心は「今」から離れてしまっています。働いているときも、遊んでいるときも、食事しているときも、心はいつも別のところにあります。昨日受け取ったメールを思いだしたり、明日乗る電車のことを考えたり。不安や怒りにおそわれるのは心が「今」から離れた、こんな瞬間。過去に受け取った情報を材料に何かを考えたり、未来を思うと不安や怒りが起こるのです。
「知識ゼロからのマインドフルネス」 長谷川洋介・貝谷明日香(著)
文章を読み進めながら、私は、どんどん言葉を失っていきました。本当に、その通りなのです。子どもとの関わりにおいて、私は特に長女の「未来」を不安に思い、心配ばかりしていました。そして、「過去」の失敗に対しても寛容にはなれず、ただ責めるような考えばかりが浮かんでいたのです。
この思考は子どもたちにだけ向けられていたのではなく、私が自分自身の過去を責めたり、未来を憂いて過ごしてきたことにも気がつき、呆然としました。
「これから先も、こんな生き方を続けるのは嫌だ。私は、もっと”今”を生きたい!自分の人生のハンドルは、自分自身で握って生きていきたい!!」
泣きながら、そう強く思ったことを今でもよく覚えています。このことをきっかけに、私はマインドフルネスへの扉を開ける決意をしました。
これが、私とマインドフルネスとの出会いです。
子育ては、私育て
マインドフルネスの基本は、呼吸瞑想です。これは、鼻呼吸に意識を向けるトレーニングです。はじめの頃は瞑想をスタートすると、何秒と経たないうちに鼻呼吸から意識がそれて、関係のないことを考えてしまいました。マインドフルネスでは、それを「雑念」と言います。雑念の内容は、1カ月前の夫との喧嘩から今日の夕飯のメニューまで、本当に様々です。
でも、そんな雑念にただ気づきを向け続けると、自分の思考は想像以上に「今ここ」にはないのだと、驚きました。そして、過去や未来のことばかりを一生懸命、繰り返し考える自分がなんだか愛しく、微笑ましく思えるようにまでなったのです。
「うんうん、そうだね。それはよく分かったら、今に意識を向けようね!」
瞑想中、雑念に気づいたら、そっとそう声をかけてあげます。すると、とても温かく優しい気持ちになりました。
こんな感じで、少しずつ楽しみながらマインドフルネスのトレーニングを続けていくと、驚くことに3カ月ほど経った頃から、子どもたちの見え方がどんどん変わっていきました。過去でもなく、未来でもなく、「今ここ」にいるわが子と向き合おう…そんな気持ちが自然と表れるようになり、長女に対して抱いてきた不安な想いが劇的に減っていったのです。
特に、怒りの反応を、ただあるがまま観察できるようになったことは、私の子育てや生き方全体をとても楽なものにしてくれました。
そんな、安らかな時間が増えていった、ある日。ふと今までの生活を振り返ってみると、長女はいつでも「今ここ」を生きていたことに気がつきました。言葉にできない感情を癇癪という形で表現し、精一杯気持ちを伝える。過去でも未来でもなく、今大切にしたいものを味わい尽くす。これは、いつしか私が諦めてきたものでもありました。
そして、苦手なことがあってもそれをあるがままに受け入れて、素直に笑顔いっぱいの日々を送っている長女に対し、突然「敬意の念」のようなものが立ち上ってきたのです。私は、涙が止まりませんでした。その後も、時間が経つに従って、長女に対する感情は更に穏やかなものへと変わっていきました。子育ては、まさに私育てだと気づいたのです。
現在、次女はようやく甘えられるようになったと感じたのか、沢山の小さなわがままを伝えてくるようになりました。そして私は、ただそれを受け止めながら、スキンシップや「大好き」などの言葉がけを、シャワーのように浴びせています。もちろん、長女にも。今は、この関係が愛しくてたまりません。
とは言え、子どもたちとは喧嘩もしますし、怒りが込み上げることもあります。そんな時は、落ち着いた頃にマインドフルネス瞑想を行ったり、所作をマインドフルに行い自分自身を整えることで、怒りの感情が翌日まで尾を引くことはほとんど無くなりました。
マインドフルネスとは「心が満たされた状態である」と、私は捉えています。今、この瞬間に意識を向けながら、日々を大切に、そして丁寧に過ごす。これはまさに、幸せに生きるための「根っこ」です。この根を子ども達にも私にも、温かく、しなやかに育んでいきたいと願っています。
さて、ここまでが私のマインドフルネスに出会う前と、その後のストーリーです。
私がマインドフルネスに出会って、子育てや自分の人生が楽しめるようになったように、今、辛さや孤独を感じているママにも、マインドフルネスを知ってもらいたい…そんな想いで、今では、マインドフルネスを伝える側にもなりました。マインドフルネスを通して、今を生きる毎日を、一緒に味わってみませんか?
著者プロフィール
ワカナ(小田 和加奈:Mindful.jp編集部)
ライフコーチ、マインドフルネストレーナーとして「今、幸せを感じながら生きられる人を増やす」をミッションに、パーソナルセッションの提供やワークショップ等を開催中。
好きな言葉「過去の延長線上にない未来を描く」
・まなびやアカデミー 認定 マインドフルネストレーナー
・PICJ 認定 関係コンディショニングプラクティショナー(U理論)
・Points of You® 認定 Practitioner/トレーナー
・石田勝紀 主宰Mama Café 認定 ファシリテーター/育成講師
・SDGs for School 認定 エデュケーター 等
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