自動操縦状態に気づくだけで世界が変わる-私とマインドフルネス#3-

この連載は、ドイツに暮らすTomokoさんが、マインドフルネスに出会い、それからどう人生が変わったのかを綴るエッセイです。

▼前回までの記事はこちら
第1回 始まりは娘の過呼吸。「私はひどい母親だった」と涙したあの日
第2回 「これ以上続けても意味がない」そう思った矢先、問題は私の中にあることに気づく

もくじ

自分の思考パターンを理解し、認知すれば建設的な反応を選べる

自分が「完璧主義・成績主義」というAutopilot(自動操縦状態)にはまり込んでいたことにやっと気づいた私は、8週間コースの後、1年コースに進んだ。

Autopilot(自動操縦状態)を説明する時、私の先生(ドイツ人)はドイツ語で「Gedankenmuster(思考パターン・思考癖)」という言葉をよく使った。Aという刺激を受けると、この「Gedankenmuster(以下、思考パターン)」が自動的にBという反応を呼び起こす。だからこの思考パターンを理解し、その発動を認知さえできれば、反応Bが出る前に自由に言動を選べる、と言うわけだ。私の場合は「完璧でないとダメ」という思考パターンがあるので、娘の赤点(Aという刺激)を見ると、怒り・失望(反応B)が瞬時に出てくる。この仕組みに気づくことができれば、今必要な、娘に対しての建設的な対応Cが選べる、という仕組みになる。

瞑想実践を続けるうち、自分が自動操縦状態にある時、それを自ら意識できるようになってきた。もちろん自動操縦状態のまま、ずるずると過ごしてしまうこともあるのだが、娘との関係においてはかなり敏感に自分の状態を把握できるようになっていき、先生の言う「自動反応が出る前に言動を選ぶ」ことも、少しずつできるようになっていった。

アドラー心理学の実践もできるように

私の大好きなアドラー心理学が実践できるようになったのも、この頃だ。それまでは、娘に対してアドラー流の声がけをしようと思っても、私の感情が先走り、頭で理解しているはずの理論とは真逆の、後から後悔するようなことを口走ってばかりだった。 
だが、マインドフルネスで自動操縦状態に気づけば、のど元まで出てきている言葉を一旦吟味して、言い直すことができる。変な例えだが、刀をさやから抜き、相手に切りつける前に、刀をさやから抜き出した(抜き出そうとしている)自分に気づき、「本当に刀を抜き、それで相手を切るのか。それで悔いはないか」と自問できるような感じだ。
娘がテストで良くない点数を取ってきた時、ほんの一瞬だけ「なんでこうなるんだ」という怒り・悲しみが湧きあがる。反応Bが出るのだ。だが、同時に私は、この反応B、怒りや悲しみが出てきたことに気づいている。そして、その怒り・悲しみは、娘の点数のせいで出てきたのではなく、私の成績主義というフィルターを通して生まれてきたことも知っている。

この「からくり」がわかっているから、今までなら刀を抜き、容赦なく娘に切りかかっていたところ、今は刀を抜かず、「今ここで娘が一番必要としている言葉」を選ぶことができるのだ。「頑張って準備したのに、残念だったね。次はきっと上手くいくよ、大丈夫だよ」…今までの私の口が決して言うことのなかった言葉がでるようになったし、柔らかな心でそれを言えるようになった。

更に、自動操縦状態から抜け出すことができると、心の視野がぐんと広くなることも体験した。自分の思い込みや信念を客観的に見られるようになっただけではなく、それ以外の考え方にも目が向くようになった。人の話を聴く時、マインドフルに聴けば、自分のバイアスを外して相手の意見を理解することができる。以前ならすぐに正誤の判断を入れていた人の意見にも、心を開きやすくなっている自分がいた。

自動操縦状態にはまっていた頃の私にとって、「成功」や「幸せ」は「良い成績を取り、良い学校を卒業し、良い会社に就職すること」だった。しかし、成功や幸せは決してそのような枠にはめて考えるものではない。高学歴でなくても、経済的に必ずしも恵まれていなくても、幸せな人はたくさんいる。幸せも成功も、その形や内容は人それぞれだ。娘の幸せは娘が定義すればいい。そこに学歴が必要だと娘が判断すれば、成果が出るまで自分で努力するだろうし、不要だと判断すれば、それなりの進路を決めればいい。
何よりも大切なのは心の健康だ。心が健やかであれば、どんな人生だって切り開けるはずだし、失敗しても、またやり直す勇気を持てるだろう。気がついたら、私は自分でも驚くほど、娘に、また私自身に寛容になり、人生の色々な場面で柔軟に対応できるようになっていた。

私と娘の関係が大きく改善したのはこの頃だったと思う。苦手科目で時々ブラックアウトを起こすことがあったが、過呼吸は一切起きなくなった。

(次回に続く)

■著者プロフィール:Tomoko

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Tomoko
1990年からドイツ在住。子供のプレ思春期時に子育てに大きくつまずいたのをきっかけにマインドフルネスに出会い、子供と自分の心を救いたい一心で藁をもつかむ気持ちで学び始める。学んでいく中、マインドフルネスの力が「集中力アップ」「リラックス効果」「ストレス低減」にとどまらず、生き方さえ変える力を持つことを体験。現在はドイツMBSR/MBCT協会認定MBSR(マインドフルネス・ストレス低減法)講師(※)として、オンライン講座等を通してマインドフルネスを少しでも多くの人に伝えるべく、活動中。
※2021年10月正式認定予定。

HP : https://tomoko-dziuba.com/

※ヘッダー画像は自宅ガレージの植え込みに咲いた花

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