始まりは娘の過呼吸。「私はひどい母親だった」と涙したあの日-私とマインドフルネス#1-

この連載は、ドイツに暮らすTomokoさんが、マインドフルネスに出会い、それからどう人生が変わったのかを綴るエッセイです。

もくじ

プロローグ:「私はひどい母親だった」と涙したあの日

もう2年以上前に遡るが、マインドフルネスの1年コースの終わりころ、オランダ人の先生と個別面談の時間があった。彼女に瞑想の進捗状況や心の変化などを話しているうちに、自分の過去と今が混ざって心によみがえり、気がついたら、私は“ I have been such an awful mother. ( 私はひどい母親だった )” と言いながら大粒の涙をこぼしていた。

それは過去の私がしてきたことへの罪悪感と、マインドフルネスを通してかつての私が囚われていたことを理解し、そこから自由になれたことへの喜びが混じっていたような気がする。

先生は”There is no awful mother. You have only been conditioned, so, Tomoko, no worries.(ひどい母親なんて、この世にはいないのよ。あなたは自分のしていることがわかっていなかっただけ。だから、Tomoko、大丈夫よ。)”と言ってにっこり笑い、私のハンカチはさらにびしょびしょになった。

このいきさつをTwitterで投稿したところ、プラユキ・ナラテボー師から「conditionedという語は仏教では「行(サンカーラ)」の訳語で、ブッダ曰く『無明(※)有りて行あり、無明なくなれば行なし』。先生の言葉はそのままブッダの言葉ですね」というコメントをいただいた。

※無明=仏教用語で、無知のこと。真理に暗いことをいう。
(Wikipediaより)

今でも情けないほど「無明」の中で生きている私だが、子育てにつまづき、マインドフルネスに出会えたおかげで、その無明のほんの一部に「気づき」という光が入ったのだと思う。少なくとも、私の強烈な思い込みから自分や娘を苛む(さいなむ)ことは無くなった。古い思い込みの癖が出てきても、それをマインドフルに認知できるから、振り回されることもない。心をほんの少しの「気づき」で照らすだけで、生きるのが楽になった。

マインドフルネスは、集中力アップやストレス低減、リラックス状態や当たり前の日常を楽しむ余裕を作ることを「効果」として謳われることが多いように思うが、マインドフルネスが見せてくれる世界はもっともっと広い。

ここでは、私の経験から、マインドフルネスの実践を通してどんな世界が見えてきたのかを書いていこうと思う。

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始まりは娘の過呼吸

娘が12歳になるころ、過呼吸、パニック、テスト時などにブラックアウト(一時的な記憶喪失)を起こすようになった。原因は私の完璧主義の押し付けだ。私自身が完璧主義に徹することで、学業も仕事もそこそこ上手くやってきたので、私にとっては「完璧であること=成功の条件」という法則があった。「娘の将来のためを思って」、娘が小学校3年生くらいの頃から私は娘に強烈な完璧主義を押し付けていた。

人より努力するのは当たりまえ。ミスはしてはいけない。できないのは努力が足りないから。テストは9割より下は失敗とみなす。結果が全てだ。私がずっと自分に課してきたことを、娘にそのまま課した。もともと勉強が得意ではない娘には、苦行以外の何物でもなかっただろうと思う。

娘は常にびくびくするようになり、私の顔色ばかり見て、結果を出さねばならない場面では必ず失敗するようになった。失敗すれば私がさらに圧力をかける。今から思えば、娘にとっては地獄の日々だったに違いない。後々娘から、「こんなにダメな私が生きていたら、ママに申し訳ないから、死にたいと思ったことが何度もある」と言われた。私が “I have been such an awful mother.” と言って涙した背景がこれだ。

子供というものは、親がどんな無明の中にいても必死に愛そうとしてくれる。当時の私は、そんな大切なことにも気づいていなかった。

娘と一緒に臨床心理士の先生の前に座って、今後のセラピープランを聞いた時、先生は私の目を見てはっきり言った。「お母さんの心が安心して、お母さん自身が娘さんをありのままに優しく受け止める基地にならないと、娘さんの心は安らげません。これは、娘さんだけの問題ではありません」。

そういわれても、どうしたらいいのか全く分からない。こんな状態の娘はどうなるのか。そもそもこの成績で進級できるのか?退学になるかもしれない。学歴の「負け組」になったら人生の終わりだ。私は娘とどうかかわったらいいのだろう。そもそも「娘をありのままに優しく受け止める」とはどういうことなのだろう。

同じ週、私は近くの街のMBSR(マインドフルネス・ストレス低減法)8週間コースに申し込んでいた。藁をもつかむ想いだった。仕事の後、毎週火曜日の夜、往復一時間半近くかけて通い、二時間半の授業を受けて、毎日一時間分の宿題をする。できる・できないの問題ではない。やってみるしかなかった。
次回に続く)

■著者プロフィール:Tomoko

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Tomoko
1990年からドイツ在住。子供のプレ思春期時に子育てに大きくつまずいたのをきっかけにマインドフルネスに出会い、子供と自分の心を救いたい一心で藁をもつかむ気持ちで学び始める。学んでいく中、マインドフルネスの力が「集中力アップ」「リラックス効果」「ストレス低減」にとどまらず、生き方さえ変える力を持つことを体験。現在はドイツMBSR/MBCT協会認定MBSR(マインドフルネス・ストレス低減法)講師(※)として、オンライン講座等を通してマインドフルネスを少しでも多くの人に伝えるべく、活動中。
※2021年10月正式認定予定。

HP : https://tomoko-dziuba.com/

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