「マインドフルネス全体マップ」〜 瞑想だけがマインドフルネスじゃない!?〜 -山下悠一-

もくじ

はじめに

マインドフルネスや瞑想って最近よく聞くし、たくさんの情報があるけど、一体何が正解なのか?何から始めればいいか?何が自分にあってるのか?がよくわからない。

マインドフルネスと瞑想って違うの? ヨガや仏教や禅との関係は?ウェルネス、ウェルビーイングとマインドフルネスの関係は?

また現代において、避けることができないDXーデジタルトランスフォーメーションの波によって、マインドフルネスはどのように進化するのだろう?

今回は、この様なモヤモヤに対して一気に全体像が知りたい!という方におすすめです。(長いですがご容赦ください。)今となっては”変容系変態男子”となってしまった僕ですが、元”外資系コンサル”でとった杵柄でマインドフルネスに関する様々な情報を交通整理してみたいと思います。そんな簡単なことではないので完全に不完全かと思いますが(汗)これを叩き台にしてどんどんツッコミを入れていただき、まだ見えないマインドフルネスという「象の全体像」に気づいていくプロセスをみなさんとともにマインドフルに味わっていきたいと思います。


「目的」 x 「実践」 x 「テクノロジー」の3軸でマインドフルネスの全体像をつかむ。

今回は、3つの軸で全体像を整理します。

1.「目的」:なんのためにマインドフルネスに取り組むのか?

2.「実践」:何をどのように実践するのか?

3.「テクノロジー」:どの様なテクノロジーがこれらを支えるのか?

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【結論】「マインドフルネス全体マップ」を通じてお伝えしたい5つのメッセージ

1. マインドフルネスを実践するにあたって「目的」は重要ではない!?

2. 瞑想が大嫌いでもマインドフルネスの実践はできます。マインドフルネスの実践方法は瞑想以外にも五万と有ります。一般的な瞑想があなたに最適な実践方法とは限りません。

3. では、何が自分にあっているか?その最適解は、最先端のテクノロジーをもってしても自動的にはわかりません。要は、実践してみなければ何が自分にあってるかはわかりません。

4. マインドフルネスの実践とは、「心の筋トレ」とも言えて、音楽やスポーツの実践と同じです。本を読むだけでもダメだし、ちょっとやそっとの実践では身についたりしません。継続的な実践が不可欠です。

5. テクノロジーはウェルビーイングを実現するか?は、ウェルビーイングの定義によります。テクノロジーは主観的/客観的ウェルビーイングを保証することはできますが、僕は、真のウェルビーイングの定義は「感情と身体感覚を意識的に体験をすること」と考えます。

テクノロジーが感情や身体感覚ー究極的に意識の代替を実現してしまったとすると、この定義でのウェルビーイングは実現しないことになります。自らの心身を使って自ら気づいていくこと、すなわちマインドフルネス=真のウェルビーイングの定義と言えるのではないでしょうか?

1. 「目的」ーなんのためにマインドフルネスに取り組むのか?

マインドフルネスを一言で言うなら「『今、この瞬間』を大切にする生き方」といえると思いますが、実際には何のために人はそれをするのか?は人によって多岐に渡っています。

マインドフルネスに取り組む目的を扱うにあたり、多くの人にとって理解が容易であろうという理由で、マズローの5段階欲求(正確には6段階)をフレームワークに活用して整理します。マインドフルネスに取り組む目的は大きく以下の6つに分類されます。

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①医療(生理的欲求)
マインドフルネスが大きく注目されるようになった源流は、医学的な治療への活用で、1979年にマサチューセッツ大学医学部のジョン・カバット・ジンがマインドフルネス・ストレス低減法(MBSR)を開発したことに行きつきます。MBSRは、認知療法と瞑想法を合わせて開発されまそした。その後、マインドフルネス認知療法(MBCT)はMBSRをもとに、うつ病の再発予防を目的として開発されたました。マインドフルネスは社会的な必要性・信頼性の高さから、第1にうつ病患者に対して予防・改善という医療目的から発展してきました。

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© TT NYHETSBYRÅN

②心身の健康とウェルネス(安全欲求 〜 社会的欲求)
ウェルネスという言葉は、「健康」の概念を拡大するものとして、1961年、アメリカの公衆衛生学のハーバート・ダン博士によって提唱されました。「病気(Ill-Ness)」に対峙する「健康(Health)」に対して、「ウエルネス(Well-Ness)」という総合的な健康の概念を打ち出しました。

現在では、ウェルネスは「心的、身体的、精神的、感情的、社会的、環境的に健康な状態に繋がるライフスタイルの積極的な追求」とされています。(Global Wellness Instituteの定義)

特に、若手世代ーミレニアル世代、Z世代を中心にウェルネスへの志向性やニーズが高まっています。ミレニアル世代は、基本的に「健康、幸せ、ウェルビーイング」を求めており、 精神的な豊かさと物質的な豊かさは等しく重要で、69%はフィットネスウェアラブルを所有しているそうです。(Deloitte Global Millennial Report)

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昨今のコロナ禍において、10月時点でコロナによる死亡者1,743人(全合計)に対し、10月単月の全国自殺者数は2,153人(月次)にものぼり、前年同期に比べて39,9%増加しました。(警察庁調べ)

マインドフルネスは、1番目に記した直接的な医療目的以上に、安全欲求・社会的欲求を満たすもの、すなわち感情的な不安や孤独感の増大を防ぎ、心身の健康とウェルネスを高めるためにも極めてその必要性が高まっていると感じています。

③ファッション・エンタメ(承認欲求)
国内では、マインドフルネスを月に1回以上実践する人口は193万人(440億円市場)で今後マインドフルネスを行ってみたい人は935万人いるとされ、2023年までに市場規模は現在の約5.7倍にあたる2,500億円にまで成長する見込みという調査結果が、マインドフルネスx エンターテイメント領域で事業を伸ばしているラッセル・マインドフルネス・エンターテインメント・ジャパン社から発表されています。

マインドフルネスは、ヨガが辿ってきた流れと同じように、これからますます一般に広まっていくと考えられます。その際に、マジョリティーの人たちは、マインドフルネスを「ファッション・エンタメ」として親しんでいくようになるでしょう。
例えば、NYのあるネイルサロンでは、5ドル追加するとヘッドフォンで誘導瞑想を聞くことが出来るそうです。このような流れに対して、瞑想のマクドナルド化と称して「マック・マインドフルネス」と批判されることがあります。

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芸能人やモデル、プロスポーツ選手がやっている、友達も始めた、だから自分も始めようという人が増えてくるでしょう。
マインドフルネスがより一般層に広まった時、元々の本質からは離れ、気持ちいいから、お洒落だから、やっている自分がイケてるから、映えるから、モテるから、そんな目的でマインドフルネスを始める人もこれからどんどん増えてくると思います。

④パフォーマンス向上(自己実現欲求)
現在、マインドフルネスに取り込んでいる人の多くは、仕事をしている中で、集中力を高めたい、明晰な判断力を身に付けたい、創造力を高めたい、コミュニケーション力を高めたい、などビジネスのパフォーマンス向上に役立てているかと思います。

もはやいうまでもなく、apple、Intel、Google、Facebook、SAP、LinkedIn、ゴールドマン・サックス・・・パフォーマンスの高い大企業の研修、福利厚生、人材戦略の中核にマインドフルネスが含まれるほどになっています。日本企業がお得意の「タイムマシン経営」により、これからこの流れはますます加速するはずです。

HRテクノロジーに関する第一人者であるデロイトのジョシュ・バーシンも、「次のトレンドはウェルネスである」と断言しており、企業の戦略におけるウェルネスの位置づけは今後も高まっていきます。これからは、単なる福利厚生やリテンション施策に止まらず、企業の戦略として「持続的パフォーマンス(Sustainable Performance)」を高める、というテーマ設定が一般化していくようになると、そのためのマインドフルネス導入の流れは加速することは間違えないでしょう。

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⑤社会変革(自己超越欲求ーその1)
社会変革のためには人間中心主義から脱却する必要があり、そのためにはハーバード大学のロバート・キーガン教授らが提唱する成人発達理論において自己主導型から自己変容型へシフトする必要があり、またケン・ウィルバー氏が提唱する意識のステージで言えば、アンバー/オレンジからグリーン/ティールに自己変容する必要があるという考え方があります。

この意識変容により、人類は利己から利他へ、自己中心から他者共感へシフトし、そのことによって、紛争や戦争がなくなり、マネー資本から共感や社会関係資本を中心とした経済社会へ変容し、環境に負担をかけない持続可能社会を実現するという考え方があります。このような目的を達成するために、社会起業家、イノベーター、アクティビストなどがマインドフルネスの実践に取り組んでいます。

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⑥悟り(自己超越欲求ーその2)
最後に、現代社会への実利益を目的としない悟り/解脱/涅槃を目的とするものがあります。正確にいうと、「目的を持たないマインドフルネス」と言えるのかもしれません。

例えば出家者にとっては、日々の生活がマインドフルネスの実践そのものであり、そこに現生的な実利的目的を持ちません。目的を持つこと自体が目的を達成できなくなる?ということのようです。悟っていないのでこれ以上わかりません、突っ込まないでください(笑)

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マインドフルネスを実践するのに「目的」は重要ではない!?

よく、マインドフルネスで仕事のパフォーマンスが上がるのか?いやマインドフルネスは本来そういう実利を目的とするべきものではない!という議論を耳にすることがあります。そして、その狭間で悩んでいる実践者が多く存在します。

僕は、マインドフルネスの目的をどれか一つに絞る必要はないと思っています。
マインドフルネスは、かなりの万能薬であり、どんな目的をもかなえてくれると言っても過言ではないかもしれません。

よって、マインドフルネスの定義(目的・用途)が人によって異なることは当然であり、それらのどれかを否定する必要もありません。

先にあげた1.「目的」の図表の通り、マインドフルネスを様々な目的で活用するということは、様々な異なる層に広まることを意味しています。そうすることで社会全体として6段階の欲求を全て充足していくことができるわけで、社会はそうして満たされていくのではないかと思います。

例えば、社会変革目的でマインドフルネスを探究している人が、マインドフルネスをファッションとして消費している人たちを批判的に話しがちです。しかし、その当人にとっては承認欲求がまず満たされていなければ、目的としたい社会変革を目指すような自己超越的な意識変容に至ることはできないでしょう。

また、6段階欲求のピラミッドを、マインドフルネス実践者の人口比率の構造として捉えて見ることもできます。社会変革目的でマインドフルネスを行う層はイノベーター理論でいうイノベーターの2%であり、おそらくこの100年で人数は何倍にも増えると思いますが、その割合自体は大きく変化しないでしょう。なぜなら、他の目的で実践する人たちも同時に増える=マインドフルネス市場全体が何倍にも大きくなるからです。

つまりその人にとって、マインドフルネスがどの様な目的であれ、実践されることが大切であり、そうすることで社会はより満たされていくのではないでしょうか。

よって、目的がビジネスだろうが、悟るためであろうが、ファッションのためであろうが、オールOK!というスタンスがいいなと思うのです。目的やマーケティングは方便であり、一番大切なことは何より「実践」です。

そして、実践しているうちに、「目的自体が自然と変容していく」というところがとても重要なポイントです。だから、入り口としての目的はどこからでも構わないと思うのです。

(無論、軍事訓練の中で、射撃のパフォーマンスを上げるために、マインドフルネスを活用していいのか?という問題も出てくるため、ただ広がればいいわけではないことはいうまでもありませんが。)

このように、あらゆる目的を受け入れる姿勢はとても大切なことだと感じています。マインドフルネスに関する様々なステークホルダー同士がそれは正しい、それは間違っている、と分断することこそマインドフルに捉えれば避けられる不要な分断だからです。

そして、昨今成人発達理論やティールなどが流行り、その風潮が強まっている中で、垂直的成長志向、更なる上昇志向になっていくと、超越的な目的を達成することが唯一の目的や価値だという偏った考えになります。これでは排他的になり、新たにもうひとつのヒエラルキー構造をうむだけです。
マインドフルネスが”意識高い系”から脱するポイントはここにあると考えています。

あらゆる目的を受け入れるとは、あらゆる思考や立場を持つ人を受容し、自分と他者に起こりうるあらゆる感情や欲求を受容するということであり、そのことによって、社会全体に共感が高まり、社会は全体性を取り戻すことになるのだと思います。その人がマインドフルネスを実践しようとしている人なら(目的がなんであれ)それだけで信頼できると思うんですよね。

「マインドフルネスやってる?」ー答えがYesなら、「もう僕たちは家族だ」と。

2.「実践」ー何をどのように実践するのか?

目的は重要ではないと述べました。では何が大切か?それは、何よりも実践です。実践内容と方法の整理には、心身の「対象」を切り口にするとわかりやすいと思います。ボディー、マインド、スピリット・・・という言葉を聞いたことがあると思いますが、弊社(ヒューマンポテンシャルラボ)では独自のフレームワーク ヒューマン・ポテンシャル・ライフ・プラクティス(HPLP)として対象を5つに分類しています。

マインドフルネス=瞑想ではありません。マインドフルネス実践方法は実に多様であり、何千あるのか数え切れません。その中に、瞑想があるのですが、瞑想の種類だけで500種類以上あると言われています。では、瞑想や瞑想以外にどんなタイプのプラクティスがあるのか?見てみましょう。

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5つの実践対象と実践例

①思考(MIND)
現代人の多くが左脳過多、思考過多傾向で、認知バイアスの罠に陥り、冷静な判断ができなかったり、思考が限定的になったりしがちです。それはまるでスポットライトの性能が高まり、光が強くなりすぎたがゆえに、闇の領域ー気づかない無意識領域ーも深まり、拡大してしまったというイメージです。このような課題に対して、多くの人が得意としている「思考」自体を使って解決を促す各種実践方法があります。

代表的な実践例としては、アファメーション、クリティカルシンキング、メンタルモデルの探究、コーチング 等です。脳神経科学、認知心理学、発達心理学などがベースになります。

②感情(EMOTION)
僕たち現代人は、ビジネスや家庭において、感情を扱うことに、あまり慣れていません。知識やどうすべきか?は習い問われるけど、今の感情がどうか?それをどう感じるか?を問われることはほとんどありませんでした。また、負の感情とは悪いものとして排除されてきました。

結果として、多くの人は、自分の感情に気づかず、負の感情を無意識下に追いやってしまうことで、ほとんどオートマティックに行動や思考が過去の体験やそれに紐づく感情に支配されてしまいます。感情に気づくこと(自己認識、他者認識)そして、その感情を受け入れること(自己受容、他者受容)ができなければ、自己の成長や人間関係は決してうまくいくことはありません。
このような感情領域を実践することにより、EI(感情知性)を高めることができます。

代表的な実践例としては、感謝の瞑想、慈悲の瞑想、コヒーレンス法、NVC、シャドーワーク、等が有ります。この領域は、ポジティブ心理学、臨床心理学、産業/組織心理学など様々な心理学をベースにしたものになります。

③身体(BODY)
デスクワークや昨今だとリモートワークが多くなっているかと思いますが、多くの人が自分の身体に対してあまり自覚的ではなく、慢性的な肩こりや、ぎっくり腰などになって初めてマッサージや病院に行かれる方も多いのではないでしょうか。

僕たちは、普段思考ばかり使っていて、あまり身体に意識を向けていないのですが、実は、身体の情報処理能力は4,000億 bit/秒と言われており、脳の情報処理能力2,000 bit/秒の200万倍にも及ぶと言われます。

例えば、海外旅行に行った時などに、頭と心ではとても楽しんでいたとしても、お腹の調子が悪いことがありますよね。これは、お腹がいつもと違う環境に対して、敏感なセンサーを働かせ、ストレスや緊張状態をつくり、身構えていることになります。

過去の延長ではなく、何が起こるかわからない時代においては、過去の経験から未来を予測する思考中心の戦略的パフォーマンスではなく、イマココの感覚に根ざした身体知性による適応的なパフォーマンスが肝になってきます。身体の声に耳を傾けて、それにしたがっていくと、心身のバランスが整い、自律神経がととのい、脳の状態も良い状態を保てるようになり、明晰な意思決定や思考では得られないインスピレーションが得られるようになります。

身体の領域は、多岐に渡ります。純粋に身体を動かす筋トレ、ランニング、エアロビクスなどのフィットネスは、実は意識することで素晴らしいマインドフルネスの実践に変貌します。
さらに心と身体の繋がりを意識した実践が、ヨガや気功や武道などということになります。

このように、心と身体が繋がっているという概念をもって身体のことに言及する際は、ボディーではなくソマティックといいます。

このソマティックに関する実践には、ボディ・サイコセラピー、ボディワーク、ダンス/ムーヴメントなどがあり、それぞれにも様々な実践方法が開発されています。

身体に関する実践は、ソマティック心理学、生物学、解剖学、神経科学などがベースになります。

④精神(SPIRIT)
藤田一照さんによれば、現代人は「スピリチュアル・ホームレスだ」といいます。仕事もある、家庭もある、家も車もある。でもどこかで満たされない、何か大切な大きなものとの繋がりが感じられない、そんな感覚をもっている人が非常に多いのではないかと思います。そのような満たされた精神性を取り戻すための実践方法は大きく3つあります

・1人称:瞑想、坐禅などをさし、実践方法は実に様々ですが、基本的に自分自身と向き合うものになります。
・2人称:自分を超えた大いなるものとの対話として、祈りがあります。何かを尋ねたり、願ったり、誓ったり、感謝したりします。
・3人称:故人や誰かのために、願ったり想いを馳せるものがあります。

宗教学、哲学、文化人類学等がベースになります。

⑤生活(LIFE)
実は日々の生活のほとんどのことが意識次第でマインドフルネスの実践そのものになります。掃除、皿洗い、裁縫などはわかりやすいと思います。お片付けで世界で活躍されているコンマリさんの書籍は、米国ではZenやマインドフルネスのコーナーに置いてあります。

他にも、食事、睡眠、お風呂、サウナ、農作業、手仕事、DIY、サバイバル・・・生活の様々なシーンをマインドフルに行うことができたら、本当に豊かだなあと思います。

実践のポイント1:自分にあった実践方法は、実践しないと見つからない

トランステック・ラボ Co-Founderのジェフリー・マーティン博士は、過去10年間、persistent non-symbolic experience (PNSE)ーウェルビーング、満たされた心、悟りなどと表現されている意識状態をさすーを研究してきました。

シリコンバレーにて、マインドフルネスに関する最先端の研究を行ってきたマーティン博士によると、膨大なプラクティスのなかで自分にあった実践方法を見つけることは困難であり、実際には「やってみないと何が有効かはわからない」ということでした。

これを聞いた時、僕は肩透かしを食らった気がしました。最先端のテクノロジーであればどのプラクティスが自分に合うか、最適化するアルゴリズムがあってもいいのではと思ったのですが、そう簡単ではない、というのは大きな発見だと思います。

このことを音楽やスポーツに例えると簡単に理解することができるでしょう。ギターかドラムかピアノか、はたまたサッカーか、ラグビーか、野球か、どれが自分にあっているか?それは、やってみなければわからないし、実際にはやってみてもわからないかもしれません。

しばらく実践してみて初めてわかってくる、あるいはやってみてスキルが身についてできるようになっていくものであり、適性は固定ではなく変動していくということです。

実践のポイント2:実践は複合的・統合的に行うことが大切

多くの人はマインドフルネス≒瞑想とほぼ同義のように認識していたかもしれません。
ところが、上記の通り、知っている瞑想法が自分にあった実践方法ではないことが多々あるだけでなく、瞑想以外のプラクティスを含めて複合的に組み合わせてやることがとても大切なポイントになってきます。

例えば、同じ姿勢のデスクワークが続いていて身体がカチカチに凝っている状態で瞑想をしても、効果は非常に限定的です。思考(MIND)が強い人にとって、感情(EMOTION)を扱うプラクティスはハードルが高いものですが、身体(BODY)をほぐすことで扱いやすくなります。

身体を動かすのが得意な人は、身体(BODY)のプラクティスから入り、精神(SPIRIT)のプラクティスと掛け合わせるのが有効でしょう。

また、精神(SPIRIT)の探求者ー宗教上の熟達者であっても、汚職やセクシャリティーの問題を起こすようなことがよくあります。これは、感情(EMOTION)の中でも、特にシャドー(無意識領域)の実践を疎かにしている場合に起こると言われています。

このように、思考、感情、身体、精神、生活ーそれぞれをバランスよく統合的にととのえることが肝になります。
僕自身の例で恐縮ですが、毎朝のルーティンとして、①ランニング(BODY)→②海水浴/冷水(BODY)→③お風呂/温水(LIFE)→④コールドシャワー/冷水(LIFE)→⑤筋トレ&ヨガ(BODY)→⑥瞑想(SPIRIT)を2時間ほど行っています。

これは、呼吸を深め、身体を解しつつ、温冷によって交感神経/副交感神経を交互に揺さぶるように考慮し、強い思考(MIND)をあらゆる方法でなんとか沈め、心身をととのえる上で、現在一番効果的な組み合わせなのですが、他の人には特におすすめしません(笑)

自分にあった実践方法の探究やルーティンの方程式づくり自体が、何よりもマインドフルネス実践の楽しみであり醍醐味と言えるのではないでしょうか。

サウナとマインドフルネスの関係性

最近、サウナがブームですよね。僕は、サウナは、マインドフルネス実践への入り口と捉えています。

先日、サウナ学会理事長の加藤先生とマインドフルネス研究者の藤野先生と3人でお話する機会がありました。

いわゆる一般的なマインドフルネス瞑想やヴィパッサナー瞑想は、自分自身の意識を使って徐々に取り除いていくイメージだとすると、サウナは外的環境をつくって、強制的に取り除くことができる。前者には鍛錬が必要ですが、後者には必要ない。

テクノロジーで簡単にマインドフルな状態になるサウナ体験は、マインドフルネスへの潜在的なニーズの現れだと思います。実際にサウナに目覚めたサウナーが、今まで全く興味のなかった瞑想に興味を持つようになったりしています。

昨今のサウナブームは、マインドフルネスブームの先行指標と捉えることができるのではないでしょうか。
(写真)弊社ラボ常設のドーム型サウナは、ネイティブアメリカンのスウェットロッジへのオマージュ x 和の叡智麻柄模様のドームx 最新のテクノロジー:フィンランド製HARVIAの大型ストーブ日本第1号の自慢のサウナです。(現在は、HPLのコミュニティに参加いただいている方限定にてご利用いただいております。)

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3.「テクノロジー」ーどの様なテクノロジーが実践を支えるのか?

ウェルネス x テクノロジー市場の動向

DXーデジタルトランスフォーメーションの波は、マインドフルネスにも及んでいます。
マインドフルネスを包含するウェルネス x テクノロジーの市場は、米国投資銀行Nfluence Partnersによると、以下3つの領域に分かれるといいます。

①身体の健康(BODY & Physical Health)
②精神&感情のウェルネス(Mental & EMOTIONal Wellness)
③職場&人生のウェルネス(Corporate Wellness)

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僕が2018年から毎年参加している米国トランステック・カンファレンスでは、ベンチャーキャピタリストの会話の中でも「人の幸せに関する市場は、人類最後のフロンティア」と言われており、大きな市場の可能性があるとされていました。一方、野球に例えるなら、
現在はまだ「ファースト・イニング」で市場データは断片的であるが、今後急速に成長する市場と捉えられています。

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主なテクノロジー領域

「実践」のフレームワークとして提示した、思考(MIND)、感情(EMOTION)、身体(BODY)、精神(SPIRIT)、生活(LIFE)にそれらを支援するテクノロジーの概要は以下の通り非常に多岐にわたります。

①思考(MIND)
・VR/AR
・ニューロ・フィードバックー脳波記録(EEG)、筋電図検査(EMG)、脳磁図(MEG)、磁気共鳴機能画像法(fMRI)
・CCBT(コンピューターベースの認知行動療法) 等

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Muse

②感情(EMOTION)
・感情認識技術ー顔認識、声帯認識、等

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Affectiva

③身体(BODY)
・バイオ・フィードバック/ウェアラブルー心拍、高級、体温、発汗、等
・バイオ・刺激ー迷走神経、抹消神経
・バイオ・テックー遺伝子、腸内細菌、等
・ロボティックス 等

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Hartmath

④精神(SPIRIT)
・ニューロ・刺激ーTMS(経頭蓋磁気刺激法)、tDCS/tACS(経頭蓋電気刺激法)、TUS/FUS(経頭蓋超音波刺激/経頭蓋集束超音波刺激)
・サウナ
・フローティングタンク、瞑想ポット 等

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Zendomedition

⑤生活(LIFE)
・スリープ・テック
・ウェルビーイングスペーステクノロジーー空間、照明、材料、植物、空気、水 等

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デジタル時代のカウンターとしてのマインドフルネス

米国発のマインドフルネス国際カンファレンスWisdom2.0は、2009年シリコンバレーから始まり過去10年間にニューヨーク、アイルランド、パリ、シンガポールなど世界各地で開催され、今年、ついに日本でも開催されました。過去には、ツイッター、フェイスブック、eBayの創立者といった今日、最も影響ある人々が登壇し、5,000人を超えるまでに発展してきました。

その背景には、デジタル時代の光と闇があります。発端は、シリコンバレーで働く人たち自身のデジタル疲れにあり、昨今では、元Google社員で人の注意を奪い続ける技術を研究してきたトリスタン・ハリス が、このようなビジネスモデルを「アテンション・キャピタリズム」と批判し、時間を浪費するために技術を使うのではなく、「Time Well Spent(有意義な時間)」のために使うべきだとし、同名の非営利団体を立ち上げました。

人間はテクノロジーにいとも簡単にハックされる脆弱な存在であり、SNSのビックジャイアントたちが繰り広げるのは、「脳の大規模なハイジャック行為」であると警鐘を鳴らします。

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AI、テクノロジーが我々の感情や思考をますます支配しようとする中で、「我々は何者なのか?、何のために生きているのか?」という問いを投げかけられているように思います。

科学とテクノロジーは今のところ、この問いには答えてはくれません。僕たち自身が、自らの意思でこの問いに答えていくこと、すなわちマインドフルに気づいて生きることがますます大切になってきている時代だと思います。

混迷を極める昨今の時代において、米国発の流れとは逆に、日本から世界に和の精神や叡智を世界に届ける使命感をもってはじまった、日本発のマインドフルネス国際カンファレンスZen2.0は、鎌倉の仲間たちが禅の聖地である建長寺から発信しており、年々その存在感を高めています。

テクノロジーは人を幸せにするのか?

東大でテクノロジーとウェルビーイングの関係性について研究している七沢智樹さんによれば、テクノロジーが与える変化が個人的、社会的幸福に与える影響に照らして体系的に探求した研究は世界的にもほとんどないのだそうです。これには驚きました。

テクノロジーが、近代において機械化、効率化、自動化などによって、様々な苦を取り除き、仕事や生活の質、健康や寿命に大きな改善をもたらしたことには疑う余地はないでしょう。

しかし、前述の通り、昨今のテクノロジーは、私たちの思考、感情、気づきを奪い、それらを味わうことを限定させていることは、幸せやウェルビーイングに反しているようにも考えられます。

真のウェルビーイングとは?

僕は、「感情と身体感覚を意識的に体験すること」が真のウェルビーイングの定義と言えるのではないかと考えています。

ある体験が、その時主観的に不快だったり怒りを感じたりすると、主観的ウェルビーイングのスコアは低く、また脳波的にもホルモン的にも悪く、客観的ウェルビーイングスコアは低くでます。

しかし、そんな現在のウェルビーイング指標が低く出る体験であっても、それが自分の心身にとっての成長機会であったり、学びであったりすることも実際多いですよね。

そして、もっと言えば、負の感情も不快な身体感覚でさえも、そもそも生きているという生命の不思議や存在の実感として捉えることができるようになる、そのようなことに気づくことができるならば、それはどんな環境や時空間においても、それらを意識的に体験している限り、常にウェルビーイングな状態であると言えるはずです。

どんなものであれ、あらゆる感情や感覚を体験することができる、意識することができれるならばそれは素晴らしいことでしかないと思うのです。

そこで、最終的にテクノロジーはこの「1人称の意識」を代替することができるのか?ということになってきます。

そして、1人称の意識をテクノロジーが代替してしまうならば、それは僕の定義では、ウェルビーイングではない、という結論になります。

つまり、こういうことです。不幸なことを体験することも含めてウェルビーイングであり、そのことを経験するために僕たちは生きているのであって、最終的にそれをテクノロジーで代替してしまうならウェルビーイングにならないので、結論、「テクノロジーは真のウェルビーイングを実現できない」となります。

人類に意識があるということがウェルビーイングの条件だと。

さて、ここまでいくと、では、ウェルビーイングは人類のためのものか?ということにもなってきます。もしかしたら、人類の意識がテクノロジーに置き換わり、自動制御されることで、人類がウェルビーイングでなくとも、地球環境はむしろ最適化して地球としてはハッピーでウェルビーイングかもしれませんよね。

人類に(現状レベルの)意識があるが故に、これまでのところ地球の環境には害を与える存在になってしまっているのではないか?と。

人類が自らの意識を持って、地球繁栄、宇宙繁栄に貢献できたなら、それこそ至福ではないかと思うのです。

一方、では地球の繁栄とは?宇宙の繁栄とは?ということにもなるのですが・・・星は生まれて必ず死んでいくので、地球や宇宙のウェルビーイング=繁栄というわけではないんですよね。。。そう、全ては繁栄して衰退して死んでいくだけのこと。

ということは、一周して、やっぱり人類に意識がある状態=ウェルビーイングということでいいんじゃないでしょうかね。

あらゆることに気づいている、それだけで人類も地球も宇宙も幸せ。

ということで、僕の中での結論は、マインドフルネス=ウェルビーイングとこれがなんと最後にイコールで結ばれてしまったのですが・・・

嘘か本当かはあなた次第(笑)

みなさんどう思いますか?

終わりに

今の自分にあった「目的」を入り口として、自分にあった「実践」方法を見つけ、「テクノロジー」の補助輪を使いながら、実践を継続していくことが大切だいうことが伝えたかったことです。

すなわち、目的もテクノロジーもあくまで「手段」であり、「マインドフルネスを実践する人生の旅路を歩む道こそウェルビーイングそのもの」ということです。

僕たちヒューマンポテンシャルラボ(HPL)は、マインドフルネスの旅の全体マップを提示し、あなたが、どこの入り口から入り、どんな旅をおくりたいかをたずね、「マインドフルネスを実践する人生の旅を共にするガイド」です。

そして、そんな旅を、上からの目線ではなくHPL=「Hentai(あるがままでOK)・Ponkotsu(できなくてもOK)・Love(愛を持って)」な仲間たちと、自分たちが実験し、楽しみながら、時に苦しみながら、共に歩んでいければなによりと思っています。

様々な叡智をもつ実践指導者(プラクティショナー)と共に、誰もに開かれた叡智をー「オープン・ウィズダム」をスローガンに掲げ、人類の未知なる可能性をひらくことに貢献していければと思っております。これからも、終わりのないマインドフルな旅を共に歩んで行きましょう!

ついつい長くなってしまいました(笑)

最後まで読んでいただき、ありがとうございました。

■プロフィール

山下 悠一
Yamashita Yuichi

(株)ヒューマンポテンシャルラボ 代表取締役CEO 

早稲田大学理工学部出身
外資系コンサルティングファームに12年勤務し、企業戦略から
人事戦略・組織開発、システム導入まで幅広く等を手がける。

近代西洋パラダイムに基づく経営手法の限界を痛感し2015年に
ドロップアウト。
ブログ「僕がアクセンチュアを辞めた理由」が大きな反響を呼ぶ。

その後、古代叡智から米国カウンターカルチャーまで幅広いウェルネス体験を経て、2018年6月、人の内的成長と潜在能力を高め、本質的なウェルネスを提供するヒューマンポテンシャルラボを立ち上げる。
2019年4月に株式会社アカツキから資金調達を得て現在に至る。

山下 悠一|note株式会社ヒューマンポテンシャルラボ
代表取締役 CEO 山下 悠一 ウェルビーイングをみんなでラボる。ウィズダム・コモンズnote.com

■お知らせ

ヒューマンポテンシャルラボでは、今回紹介しました、実践のフレームワークーヒューマン・ポテンシャル・ライフ・プラクティス(HPLP)ー思考(MIND)、感情(EMOTION)、身体(BODY)、精神(SPIRIT)、生活(LIFE)ーにそって、あなたにあった最適なプラクティスを提案します。
何からどう始めればいいかがわかるヒューマン・ポテンシャル診断(無料)からはじめてみてください。

Human Potential Lab | 人生が変わる体験を、共に。ヒューマンポテンシャルラボは、古代叡智(Wisdom)から最先端テクノロジー(Transtech)を統合し、人の内的成長とh-potential.org

また、このように、統合的なプラクティスが不可欠であると言う考え方は、思想家のアインシュタインと言われるケン・ウィルバーが提唱してきたのですが、ウィルバーの理論は非常に難解で本を読むわけでは身につけることが難しいこの理論をどのように実践に落とし込めばいいのかをその道を極めているプラクティショナー(実践指導者)たちと探究していく講座を行っています。

現在150名ほどの方が参加されています。途中からの参加でも問題なく、アーカイブでいつでも学習することができますので、ぜひこの機会にご参加ください。

4.インテグラル・ライフ・プラクティス_16-9_02のコピー

インテグラル・ライフ・プラクティスVUCA時代にコロナが重なり、ますます複雑化する社会やビジネスに適応するために必要なスキル。 それは、ティール的な自己成長life-practice.h-potential.org

10,000円

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その他、各種プログラムやイベント情報は、弊社FacebookPageにて発信していますのでぜひフォローいただければと思います。

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