がんばりすぎない生き方-荻野淳也-
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がんばりすぎない生き方-荻野淳也-

「現代の女性たちは、みんながんばっている。でも、そのがんばりにみんな苦しんでいるのではないかな?」

これは、2018年に出版した拙著「心のざわざわ・イライラを消すがんばりすぎない休み方」(*1)のあとがき冒頭の文。

でも、世の中の現代の女性のみならず、現代の男性たちもLGBTQの人たちもがんばっている。

思えば、小学生からシニア世代まで、本当にみんながんばっている。
社会から遠ざかっている引きこもりの人達だって、彼らの世界の中ではきっとがんばっている。


もちろん、がんばることは、必要だと思う。

実現したい夢に向かって自分のスキルや経験を高めていく
より良い人間関係のために苦しいけれども大切な人としっかりと話していく

入りたい学校やなりたい職業があればそのための勉強の努力も必要
事業の立ち上げや立て直しには、当然それ相応の努力が必要になってくる

でも、がんばりすぎて、心や身体を壊したり、大切な人を傷つけていないか、良好な人間関係を台無しにしていないだろうか。

また、そのがんばりは、本当に必要なのかと問うことも必要かもしれない。

がんばっている人、がんばりすぎている自覚がある人、もしかしたら自分もがんばりすぎているのかも、と気づき始めている方に今回の内容をお伝えしたい。

盲目的にがんばりすぎる生き方をしていないか

自分自身のがんばりすぎに初めて気づいたのは、今から十数年前。
当時、絶賛事業拡大中で、株式公開を目指していた会社の事業責任者をしていた時のこと。

その数ヶ月前から左手、左足の指先の痺れが続くようになっていた。
なんとなくの直感で西洋医学の病院ではなく、近所で評判の良い鍼灸院に駆け込んでみた。

その鍼灸院の先生が僕の脈診をして数秒後、驚いた様子でこう伝えてくれた。

「とても強いストレス状態が長期間続いていると思われます。このまま続くと、この痺れは一生取れなくなりますよ。何か原因となる思い当たることはありますか?」

僕は、心の中ではこう答えていた。
「そりゃそうですよ、事業責任者として、これから社員にリストラを言い伝えなければいけないタイミングなのですから。人の一生を左右しかねない意思決定をしなければならないのに、ストレスがかからないわけがないじゃないですか!」

同時にこんな心の声も聞こえてきた。
「とうとう体にも出ちゃったか。」

その数年前、仕事で大きな目標を達成したものの、 その後、大きな目標が見つからず、ただただ大量の業務をこなすだけになっていた時期に、人生で初めて「燃え尽き」を経験していた。

でも、その時は病院に行くことはしなかった。
なぜならば、病院に行けば、精神疲労、もしくは、うつ状態ということで、「休職すべき」と言い渡されることを何となく理解していたからだ。
(今から思えば、その精神状態が全くナンセンスだと思うのだけれど笑)

鍼灸の先生から、初めて客観的に自分の体の状態を指摘され、なんとなくは気づいていたけど、自分の心と体を酷使しすぎて仕事をしてきたこと、もしくは、心身を酷使する人生送ってきたことを深く自覚した。

そして、ようやく戦い続ける人生、言い換えると、自分の価値を証明し続ける人生から、次の人生を歩んでいこうという、心の準備ができてきた。

初めての精神的な燃え尽きの経験した時から、手足の慢性的な痺れという身体への影響が出るまでの数年間、なんとなく「このような生き方で良いのだろうか」という心の奥底にうずまいていたモヤモヤした感覚にようやく意識的になり、僕にその決断を促してくれたのだと思う。

がんばりすぎを強要する二つのシステム

今から思えば、「さっさと気づいて、早く次の人生にシフトすればいいのに」と思うが、当時の僕は、そのような気づきにいたる環境、状態にはいなかった。

なぜなら、その気づきを許さない(と思われた)2つのシステムの中に、どっぷりとハマっていたからだ。

2つのシステムとは、単純に言えば、外側のシステムと内側のシステム。

外側のシステムは、「こうすべき」「ねばならない」という概念を無意識のうちに押し付けてくる自分が所属する世界、社会のこと。

僕のことでいえば、「いい学校に入って、いい就職をして、いい仕事、いい給与を得る」ことがすべきこと、という社会的な成功モデルの概念を信じ込み、実現に邁進していた。そうでないと幸せになれないと無意識に信じ込んでいたので、実現できるまでがんばりつづけた。

多くの人が抱いている「稼がないと食べていけない」といった強迫観念、幻想も外側のシステムの一つだと言える。

現代だと、より厄介な外側のシステムが、Instagram、Facebook、TikTok、Youtube、などといったSNS。著名人や友人のリア充的な生活を見せ付けられる外側の世界に憧れ、自分も見栄えのよいカフェや観光スポットに赴き、写真を取っては「いいね」やビュー数を稼ぐために投稿を繰り返す。

(外側のシステムをつくり出していくSNS などのテクノロジーの危険性については、Wisdom2.0Japanに登壇してくれたトリスタン・ハリス(*2)がNetflixのドキュメンタリー「監視資本主義」で伝えてくれているので、ぜひ見てほしい。*3)

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内側のシステムは、アイデンティティ、メンタルモデル、マインドセットとも言われる信念体系や思考や感情、行動のパターン。

僕の場合で言えば、自分の価値を周囲に認めてもらいたいという承認欲求。そして、その根底にある価値を認めてもらえないことへの不安や恐怖。

そのはじまりは、幼児期における母親からの承認欲求。僕は小さい頃から親や他の大人の言うことを聞く典型的な「いい子」だった。その行動パターンの裏には、良い子と承認されないことへの不安や恐怖がある。

学校に入れば、先生や友人からの承認、そして、仲間や社会的な承認を得ようとする行動パターンへと移行していく。

僕が味わった燃え尽きの経験も当時在籍していた会社の社長や役員から、仕事の成果を認められないと自分自身の価値がないのだ、と言う恐怖心から、がむしゃらにがんばりすぎた思考や行動が原因だった。

内なるテクノロジーを豊かにし、がんばりすぎから解放される

がんばりすぎを強要する外側のシステムも内側のシステムも結局は、自分自身がつくり出している幻想だ。

「社会ではこうしなければならない」「こういう生き方をすべき」という外側の世界が個人に押し付ける概念は、昔から存在していたこと。

今は、スマホやiPhoneなどのツールによって、四六時中、情報にアクセスできる、もしくは、情報に追いかけられ、その概念の刷り込みを強化され、より厄介な時代となっているとも言えるだろう。

世界的ベストセラー「ホモサピエンス全史」の著者であり、いまや各国の有識者に影響力のあるユヴァル・ノア・ハラリは、前述のトリスタン・ハリスとのWIRED US誌の対談の中で、「機械(テクノロジー)と共に豊かで実り多き人生を送るには?」という質問に対して、次のように述べている。

「第一に、自分自身をよく知ること。できるだけ自分に対する幻想をもたないことですね。頭のなかに願望が浮かんだとき、「これは自分の自由意志だ」「自分が選んだんだから、これはいいことだ、するべきことだ」と決めつけないでください。もっと深く掘り下げてみてほしいのです。(*4)」

また、マインドフルネスの大家:ジョン・カバット・ジン博士(*5)は、Wisdom2.0Japanにおける登壇の際、マインドフルネスの実践について、次のように語ってくれた。

「(例えば)20年間悩むのではなく、いますぐ気づくことができる。Awarenessとも言えるが、関係性、自分との関係とも言える。(中略)ホモサピエンスとは、意識していることという意味がある。意識とメタ意識(意識していることを意識すること)があることが人間の特徴なのだ。」

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マインドフルネスは、癒しや瞑想ではない。

マインドフルネスにより、自分を取り巻く強迫観念にハマった世界ではなく、あるがままの外側の世界を見ることができる。そして、自分の内側の世界をより解像度高く認識(自己認識)し、本当の自分の声を聴くことが可能となり、僕たちを古い幻想から解放してくれる。

マインドフルネスは、心の時代と言われる21世紀において、これまでは未知の世界だった僕たちの意識の領域を開発していく内なるテクノロジーであり、これからの人類の進化に必要なOSなのだ。

どんな意志とともに、いまここを生きるのか

もう多くの人が肌感覚で気づいているだろうが、今は時代の転換期。
時代が変わるということは、これまでの世界、社会の前提、常識が変わるということだ。

まだまだ時代が変わり続ける真っ只中、数年後にどのような前提、常識を基盤とする世界が現れているか分からない。

だからこそ、どのような時代を創造していきたいのかという僕たちの意志が重要だ。

先が見えない時代だからこそ、がんばっても、がんばりすぎても、心の充実感や平安を得られない社会ではなく、より心豊かで平和な世界を実現しようとする僕たちの強い意志が次の時代をつくっていくとも言える。

世界に禅の世界観を知らしめた鈴木大拙は、著書「日本的霊性」(*6)の中で次のように書いている。

「意志は、つまり注意力にほかならない。」

いまここ一瞬一瞬の注意をどこに向けるかの連続が、僕たちの意志を成立させていく。

より心豊かで平和な世界を実現するという意志をもち、いまここに生きていこう。

▼注釈
(*1)心のざわざわ・イライラを消すがんばりすぎない休み方
https://www.amazon.co.jp/dp/4866510501/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_TNRYFbFZVFFTJ
(*2)トリスタン・ハリス紹介
https://wisdom2japan.com/blog/454.html
(*3)Netflixのドキュメンタリー「監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影」
https://www.netflix.com/jp/title/81254224
(*4)人間はハックされる動物である(WIRED JP)
https://wired.jp/special/2019/ai-yuval-noah-harari-tristan-harris
(*5)ジョン・カバット・ジン博士紹介
https://wisdom2japan.com/blog/716.html
(*6)日本的霊性
https://www.amazon.co.jp/dp/4003332318/ref=cm_sw_em_r_mt_dp_fMRYFb0BN4835

■プロフィール

荻野淳也(おぎの・じゅんや)
一般社団法人マインドフルリーダーシップインスティテュート代表理事。Wisdom2.0Japan共同創設者。株式会社ライフスタイルプロデュース代表取締役。

Googleで生まれた脳科学とマインドフルネスの能力開発メソッド「SEARCH INSIDE YOURSELF(SIY)」の認定講師であり、日本でSIYプログラムを初めて開催。リーダーシップ開発、組織開発の分野で、上場企業からスタートアップ企業を対象に、コンサルティング、エグゼクティブコーチングに従事。外資系コンサルティング会社勤務後、スタートアップ企業のIPO担当や取締役を経て、現職。マインドフルネスメソッドやホールシステムアプローチ、ストーリーテリングなどの手法を用い、組織リーダーの変容を支援し、会社や社会の変革を図っている。スタンフォード大学で生まれたコンパッショントレーニング:C C T(Compassion Cultivate Training)Teacher Training修了。

関連書籍に、『世界のトップエリートが実践する集中力の鍛え方 ハーバード、Google、Facebookが取りくむマインドフルネス入門』(共著、日本能率協会マネジメントセンター)『サーチ・インサイド・ユアセルフ』(監訳、英治出版)、『マインドフル・リーダー 心が覚醒するトップ企業の習慣』(監訳、SBクリエイティブ)、『スタンフォードの脳外科医が教わった人生の扉を開く最強のマジック』(解説、プレジデント社)、『たった一呼吸から幸せになるマインドフルネス〜JOY ON DEMAND(ジョイオンデマンド)』(監訳、NHK出版)、『マンガでわかるグーグルのマインドフルネス革命』(制作協力、サンガ出版)、『がんばりすぎない休みかた』(単著、文響社)、『マインドフルネスが最高の人材とチームをつくる―脳科学×導入企業のデータが証明! 』(単著、かんき出版)がある。

■お知らせ

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