マインドフルネスと「やめたい習慣」 -小林 亜希子-
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マインドフルネスと「やめたい習慣」 -小林 亜希子-

はじめに

はじめまして!マインドフルネス心理臨床センター代表の小林亜希子と申します。今回は、アドベントカレンダー2020という素敵な企画にお声をかけて頂き、ありがとうございます。様々な視点からのマインドフルネスが書かれていて、読んでいてワクワクしています。

さて、簡単に自己紹介させていただきます。私は、公認心理師、臨床心理士という資格を持っており長年カウンセリングを行ってきました。数年前に自分自身が、仕事と子育てで燃え尽きそうになった際に、助けになったマインドフルネスを教えたい!と思い、ここ数年マインドフルネスのトレーニングを受講し、皆さんに教えています。

トレーニングは、依存症を抱える方々へのマインドフルネスプログラム(MBRP)や、自分へ思いやりを向けるプログラム、マインドフル・セルフ・コンパッション(MSC)の講師養成講座を受講し、修行中です。

自分にとってマインドフルネスは、ありのままの自分を受け入れ、優しさや幸せを感じるようにしてくれた大切な生き方です。カウンセリングでもそこまで到達するのは大変な道のりなのですが、マインドフルネスは、練習は一定期間必要ですが、確実にそこに連れていってくれました。

マインドフルネスは、自分について気づいて、苦痛を減らしていくプロセスなので、自己探求するのにとてもよい方法だと感じています。

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「やめたい習慣」にマインドフルネスは、効果あり!

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自分の専門分野は、アディクションや依存症、要するに、やめたいのにやめられない行動や習慣に困っている人々への支援です。アディクションというと、一般の方は「ドン引き」してしまい「自分には関係ないわ」とシャットダウンされてしまうことが多いので、少しだけ説明させてください。

アディクションというと典型的には、アルコールや薬物、ニコチンなど物質への依存を思い浮かべる方が多いと思います。しかしながら、現在では、日常的なアディクションはもっと裾野の広い、誰しもが抱えていると言っても過言ではない状況です。

例えば、フェイスブックを頻回にチェックしてしまうなどのSNS依存や、ついネット広告に吊られてネットショッピングでお金を使い過ぎてしまうこと、オンラインゲームで時間やお金を無駄にしてしまうこと、暇さえあればスマートフォンを見てしまうことなども、「皆が抱える日常的なアディクション」と言えます。思い当たるふしは、ないでしょうか?

これらは、すべて報酬系と呼ばれるメカニズムが関わっています。例えば、疲れた時(引き金)に、甘いカフェラテを飲みます(行動)、疲れが取れて幸せを感じがします(報酬)。このように、引き金→行動→報酬と、学習した脳はこれらを結びつけてセットとして記憶します。

「単純に言えば、私達人間は、望ましい結果につながる行動を学び、悪い結果につながる行動は避けるようにできている。行動と報酬のつながりがはっきしりていればいるほど、強化は強まっていく」(ブリューワー,2017)のです。

寂しい(引き金)→フェイスブックにポストし、いいねをもらう(行動)→つながりを感じて嬉しくなる(報酬)も、ストレス(引き金)→お酒を飲む(行動)→リラックスし、癒やされる(報酬)も同じメカニズムということなのです。

こういった行動すべてが問題となるわけではありませんが、「あきらかに害がでているにもかかわらずやめられない」ときに問題となります。大切なのはほどほどにすることです。つい、私たちは自動操縦モードで、半自動的にこのような行為を繰り返していないでしょうか?

このような状態から抜け出すためにも、マインドフルネスは効果があります。ブラウン大学でマインドフルネスとアディクションについて神経科学的見地から研究している精神科医のブリューワー教授もマインドフルネスを強く推薦しています。

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アディクションとマインドフルネスは、真逆の状態である

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アディクションは、「今、ここ」をはっきりゆっくり味わうマインドフルネスとは、対局である「自動操縦モード」で起こる事が多いです。

例えばこんな風な状況を考えてみてください。仕事のストレスを忘れたくて、お酒を飲みながら、ぼんやりとテレビを見続けてしまう。イライラして、スマホでゲームをしたり動画をみて、何時間も過ごしてしまう。空虚感を紛らわせるために、スマホでSNSをチェックしながら、食べ物を過食してしまう。

これらは「心ここにあらず」で何かを行っている「自動操縦モード」の例です。感覚としては、「その行動がはじまりだしたら、本人の意志を超えて止まらない」という感じでしょうか。

SNSや、ニュース、お酒を飲む事自体が悪いというわけではもちろんなくて、ほどほどなところでやめることができない事が問題となります。

このようなアディクションの自動操縦モードからの回復に役立つのが、今この瞬間に、丁寧な注意をむけるマインドフルネスなのです。

注意集中を練習し意識的に現在にとどまり、「気づきを向ける」ことで、過去からの経験学習により無意識に走りがちな行動・習慣を、一旦間を置いてから、自らの行動について選択していけるようになるのです。

できれば手放したい、こんな行動

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やめたい習慣の例として「子どもに怒鳴る」をあげてみます。自分の場合、夕方、部屋を散らかし放題にしている小学生の娘に対して、「かたづけなさーい!!何やってんのーーー!」と怒鳴りたい衝動がでてくることがあります。しかし、怒鳴るのはよくないとわかっていますし、娘との愛着関係を大切にしたいので、本当は怒鳴りたくありません。

こんな時に、マインドフルネスを実践します。優しい、気づきを向けていきます。体に気づきを向けると、体に力が入っていて、肩はきゅっと萎縮しており顎も食いしばっています。軽く頭痛もします。お腹が空いていて、気分としてはイライラしていて、誰かに助けてほしい感じ。夕飯の準備でこなす事が多くて頭がオーバーヒート気味・・・というように気づいていきます。

このような自分の状態にまず気づくことができます。そして、呼吸にも意識をむけて落ち着いていくことで、まずは、ご飯の準備を終わらせ、お腹をいっぱいにしてから考えよう・・と、その場のイライラで怒鳴るのをやめ、ご飯をまずは食べるという選択を取ることができます。

この気付きは、ライフスタイルの改善にも繋がりました。自分は夕方の空腹時にイライラするので、早めに夕飯にする・・、下ごしらえをしておく、などの選択肢も取れるようになります。お腹が空くとイライラして、いつもよりきつめに子どもを叱ってしまうので、夕飯は早めに取るようにする、手伝ってほしいことは娘にお願いする、などの対処法を取ることで、根本的に問題がかなり解決します。
自動操縦的に取る行動をマインドフルに見つめることで、「根本的な解決策」「本当は何が必要なのか?」といった大切な視点が見えてくるのです。

マインドフルネスをアディクション支援に取り入れたプログラム〜MBRPについて〜

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 昨年、講師養成講座に参加し、現在、当センターでオンラインで実施しているマインドフルネスに基づくアディクションへの再発予防プログラム(MBRP)について少しだけご紹介します。2時間×8回のプログラムです。

参加者の方々と、自分が「やめたい習慣」(例えば、過食や、お酒や、スマホなど)に手を出してしまいそうな時の自分の状態に気づきを向けていきます。そのやり方として、いろいろな瞑想を皆で実践します。

引き金がひかれているとき、体はどんな感じがしていて、頭ではどんなことを考えて、気分はどんな感じか?ということにマインドフルに気づいていく練習を繰り返します。

たいていは、このプロセスは先ほどの「自動操縦モード」で、「不快感」すぐに「報酬系の行動」と自動的に即時にシフトすることが多いのです。好奇心を持って自分が衝動を感じている時、体や心や状況がどんな風になっているのか?を距離をとって見つめることで、渇望と関連のある脳部位である後帯状皮質の活動を抑えられるようになるのです(ブリューワー,2017)。

そして、大切なのが、「本当は何が必要なんだろう?」という思いやりを持った問いかけを自分自身に向けていくことです。イライラして、甘いものが食べたい。でも本当に必要なのはんだろう?疲れているから、ゆっくりお風呂に使って、早めに就寝することかもしれない・・そんな風に。

この新しいアディクションへのマインドフルネスプログラムは、科学的にもその効果が実証されています。2014年にJAMAという学会誌に掲載された論文では、MBRPは、通常の治療よりも6ヶ月フォローアップで再発率が低く、再発したものでも物質使用期間が短いことが示されています。さらには、辛い感情や渇望に対する長期的な対処スキルの習得効果も認められています(Bowen, et al.2014)。
 
禁煙治療に、MBRPを援用したマインドフルネスプログラムを作成したBrewer教授は、通常の禁煙治療に比べてマインドフルネスプログラムは4倍も禁煙率が高かったという研究を発表しています。水色がマインドフルネストレーニングの禁煙率です。

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(Youtubeからの画像:Brewer et al (2011)
日本では、自分たちのチームがMBRPをはじめて導入しましたが、その予備的研究でも、再発の防止や、マインドフルネスの尺度の上昇を報告しています(小林他,2020)

要するに、マインドフルネスをアディクションを抱えている人が身につけることで、再発しづらくなるのです。そういう意味で、次世代のアディクションへの治療・支援の希望となっています。

実践してみよう!SOBER呼吸法

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MBRPで練習するSOBER呼吸法についてご紹介しましょう。
SOBER呼吸法は、どんな時でも使うことのできるミニ瞑想です。正式時間が取れなくても、歩きながらでも、トイレやレジに並んでいる時、渋滞に巻き込まれている時など、いつでも、どこでも使えるポータブルな瞑想です。

どんな時に使用するかというと、できればやめたい習慣(やめているタバコに手を出しそうな時、休肝日なのに飲みたい時、カードの支払いがかさんでいるのにネットショッピングをしたい時、やらなければいけないのにゲームがしたい時、子供やパートナーに怒鳴りそうな時など)に、手を出しそうな時です。

やり方は、以下の通りです。

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こつは、衝動に流されそうになっていることに気づいたら、一旦止まることです。「えーと、ちょっとまって、ストップだった!」という感じで止まります。そして、自分や状況に気づきを向けていき、呼吸に意識をむけます。呼吸によって生じる胸やお腹の上下する感覚・・・そういったものに意識を向けます。そのあと、また気づきを体全体に広げていって、少し落ち着いた状態で、「今何が必要か?」「どんな行動を取るのが効果的か?」と考えて対応をしていきます。

日々の生活で使えるようになるためには練習が必要です。ぜひ、練習してみてください。

音声ガイドもありますので、よろしければお使いください。

やめたい習慣への衝動を感じた際に、是非マインドフルな注意を向けてみてください!

つい飲みすぎてしまう
つい食べすぎてしまう
つい買いすぎてしまう
つい家族や部下を怒鳴ってしまう
つい動画に夢中になりすぎてしまう
つい買い物しすぎてしまう
つい考え過ぎてしまう

こんな、人間なら誰でもあるつい・・・〜してしまう

そうなりそうな時、マインドフルな注意を向けてみることで、自己破壊的でなく効果的な方法を選ぶことができるようになる可能性があります。結果が180度変わるかもしれません。ぜひマインドフルネスで、手放したい行動に意識をむけてみましょう。

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参考文献
マインドフルネスに基づく嗜癖行動のための再発予防 ボーエン他 日本評論社
あなたの脳は変えられる ブリューワー ダイヤモンド社

■プロフィール

小林亜希子
(こばやし あきこ)
マインドフルネス心理臨床センター代表
臨床心理士
公認心理師
MBRP講師
MSC講師in training (MSC:マインドフル・セルフ・コンパッション)

慶應義塾大学社会学研究科社会学専攻(臨床心理学)修士課程修了
臨床歴18年。横浜市立大学、関東学院大学、上智大学等で学生相談・神奈川県・東京都のスクールカウンセラー事業に従事。また、母子生活支援施設、東京都立多摩総合精神保健福祉センターでDV被害者支援や依存症支援に従事し、個別支援(カウンセリング)と、認知行動療法に基づく集団療法を行う。

最近の業績:
マインドフルネスに基づくアディクションの再発予防プログラム(MBRP) 〜依存症回復施設利用者を対象とした予備的実践報告〜 日本アルコール関連問題学会雑誌 第 22 巻第 1 号 p107-113 2020
HP: https://mindfultherapy.jp
note: https://note.com/mindful_therapy

■お知らせ

・マインドフルネス心理臨床センターのイベントや、講座は下記peatixよりお申し込みいただけます。

・Brewer教授の動画:A simple way to break a bad habit | Judson Brewer
悪習慣を手放す上でマインドフルに衝動を見つめることで、それを抑えられることが話されています。


・当センターのMBRPについて


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