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「生きづらい」の感覚から抜け出すためにACTから学べること-小川 晋一郎-

皆さんは「生きづらい」という感覚を感じたことはありますでしょうか?僕は昔からこの感覚があって、常に漠然と生きるのってなんか大変だな〜と思ってたのですが、近年「生きづらい」という言葉自体よく耳にするようになってきた気がします。

google trendsで検索しても2014年くらいからどんどんスコアが上がってきていますね。

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もちろんこれは社会構造が「生きづらさ」を助長していることによる部分が大きいと思うのですが、一方で社会がどうであれ個人側でも生きづらさを感じやすい人とそうでない人がいる気がしており、個人的にはずっとこの「生きづらい感覚」に興味がありました。

それを解消する方法論を考えてたところもあり、独立して2019年にHakaliというデータ活用の会社を創業してからもこのテーマを追い続け、2020年5月にAwarefyというセルフケアのアプリをリリースしました。

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この領域は改めて奥が深くて、早稲田大学との共同研究やアプリの開発を通してまだまだ勉強中の身ではあるのですが、この活動を通して出会った、第三世代の認知行動療法と呼ばれる「ACT」という心理療法がめちゃくちゃ面白くて、学問の最前線はこんなに進んでいるんだ、と衝撃を受けました。と同時に世の中にそこまで知られていないことがとてももったいないなぁと思いました。

そこで今回はこのACTの理論を下敷きに「生きづらさ」を紐解き、僕たちがこの生きづらい世の中をどう生きていけば良いのか、考えてみたいと思います。

※共同研究先の熊野先生の書籍「マインドフルネス そしてACTへ」をベースに、なるべく専門用語をなくした形で書いていますので、読んでみてご興味ある方はぜひ先生の書籍を読んでみてください!

「生きづらさ」を生み出す「言葉」の持つ機能

結論から言うと、「言葉」が生きづらさを生み出す大きな要因を作っているようです。その流れを三段論法テイストで説明してみたいと思います。


1.ヒトは言葉によってバーチャルな現実を作り出す

僕らは普段何かを考える時には、主に言葉を使って考えていると思います。コーヒーを見て「あーコーヒー飲みたいなぁ」とか「今日はいつもよりちょっと眠いなぁ」とか。そして、そこにはコーヒーにまつわる様々な要素、例えば「コーヒーを飲むと眠気がなくなるんだよな」とか「カフェイン取りすぎるとあんまり体に良くないって聞いたことあるな」とか「デカフェが流行ってるな」とか、もっと自分ごとの記憶として「彼女と別れる時に喫茶店で飲んだコーヒーの味」とか「ヨーロッパ旅行で飲んだ酸味の強いコーヒー」とか「その時のヨーロッパの匂い」とか、更に、この「コーヒー」を「カフェイン量」という切口で考えると、「コーヒーよりカフェインが多いエナジードリンク」とか、「カフェインのないデカフェ」というようにコーヒー以外の概念にもどんどん繋がっていきます。これらがコーヒー周辺の言葉として脳内でネットワークを作っています。

本当はそこにはただコーヒーがあるだけなのですが。

こういった複雑な言葉の世界(バーチャルな世界)が脳内で作られているのが言葉を持つヒトの特徴と言えます。

これによってたとえば「一を聞いて十を知る」というようなある種高度な認知が可能になるわけです。


2.作られたネットワークを用いて自分の行動を制御する「ルール支配行動」

このように言葉はバーチャルな世界を作るのですが、これを使うとバーチャルな世界を元に自分の行動を制御することができるようになります。

言葉を使わない動物は、本能的な行動を除くと自分で体験したことしか学ぶことができないのですが、例えば入社したての新入社員に先輩が「○○部長は朝は機嫌が悪いから話しかけないほうがいいよ」と教えて、その新入社員が以前朝に機嫌の悪い人に話かけて嫌な思いをしたことがあったりすると「○○部長に朝話しかけるのはやめておこう」と思うことができます。

これは、直接体験したことのない状況について、予め見通しが立てられるという意味ではとても学習効率の高いやり方です。このような言葉の機能を用いて自分の行動を制御する行動は「ルール支配行動」と呼ばれています。

しかし、一方で、本当に正しいことなのかどうかは実は分からない、という問題も発生します。もしかすると助言してくれた先輩がたまたま2回くらい○○部長に朝怒られただけかもしれませんし、新入社員をからかうための嘘である可能性もゼロではないわけです。


3.現実とは違うバーチャルな現実にとらわれてしまい生きづらくなる

このように、ルール支配行動によって現実とは違うバーチャルな世界で現実のものごとを捉えてしまうことを、現実の世界とバーチャルな世界を混同している状態であるとして「認知的フュージョン」と呼びます。

認知的フュージョン自体、いわば「現実をあるがまま見れていない」状態なのでよくなさそう感ありますよね。例えば「○○さんに挨拶したら無視された。多分○○さんは僕のことが嫌いだ」と考えてしまうことも「挨拶してもらえなかった」ということと「嫌いな人は挨拶しない」ということがバーチャルな世界で結びついた結果、「自分は嫌われていそうだ」という学習をしている訳ですが、ただ気づかれなかっただけかもしれない訳で、直接聞いてもないので本当はどうか分からなかったりしますよね。

そして、この認知的フュージョンが起こると、「体験の回避」も起こります。新入社員の例で言えば「○○部長には朝話しかけないでおこう」とか挨拶の例だと「○○さんに嫌われているならなるべく近づかないようにしよう」というように、嫌な気持ちが起こらないように体験しないでいようと回避することで、「ルール支配行動」の「ルール」を書き換えるチャンスがどんどんなくなっていきます。

したくないことが増えること自体、精神的にはストレスがありますよね。こうやって認知的フュージョンや体験の回避をしていくことで生きづらい状況が増えていきます。

また、この認知的フュージョンは「じぶん」という存在に対しても同じようなことを起こします。「自分は何をやってもダメな人間だ」とか「自分はどうやっても不幸になる」とか「前回もうまくいかなかったし、今回もダメな気がする」みたいな概念にとらわれてしまい、その結果行動する意欲がそがれてしまうとこれはこれで生きづらいですよね。

自分であれ外の現実であれ、言葉によって作られた概念にとらわれてしまって、現実をちゃんと見れなくなってしまったり、特定の行動を避けようとすることが、生きづらさを増強していくのは、ここまでの流れでなんとなく理解していただけるのではないかと思います。

ACTではこのような状態を概念にとらわれて現実に柔軟に対応できていないという観点で「心理的非柔軟性」と呼んでいます。心理的非柔軟な状態を脱して、いかに心理的柔軟な状態になるか、というのがACTの目指していることのようです。


「言葉」がない世界はどのように感じられるのか


ちょっと話はそれますが、こんだけ言葉の持つネガティブな作用について書いていると、では言葉がない世界ってどんなもんなんだろうと思ったりします。

2008年とちょっと古いのですが、ジル・ボルト・テイラーさんがお話しているTEDでとても興味深いものがあります。

ジル・ボルト・テイラーのパワフルな洞察の発作

プレゼン自体がとても面白いのでぜひ見ていただきたいのですが、簡単に言うと、脳科学者自身が脳卒中になり、自分の言語機能が徐々に失われていく中で、世界が融合し幸福感(Euphoria・ユーフォリア)に包まれた、というお話です。

最近の研究だと、「右脳」「左脳」と単純化できるものでもなかったりするそうですが、いずれにせよ言語による認識世界がなくなっていく中でユーフォリアに包まれていく、というのがとても興味深いですよね。

ユーフォリア、包まれたい。

とても包まれたい。

けど、脳卒中になるわけにもいかない。

であれば、”意識的に”言語機能をカットすることができればよい。おそらく、この言語機能を”意識的に”カットするトレーニングの1つが坐禅だったりマインドフルネスなんじゃないかと思っています。


言葉の世界と適切な関係を築くために必要なこと

僕らはヒトとして言葉なしに生きていくことはできないわけですが(この文章自体も言葉によって書かれているわけで)、その上でこれまで書いて来たような言葉のネガティブな影響を減らすためにはどうすればよいのでしょうか。

ACTによれば、「言葉の世界と距離を取る」ことが必要なようです。

例えば「自分ってこう考えているんだな」とか「こういうルール支配行動があるけど、でも実際のところはわからないよね」と客観的に見れていれば、言葉による支配が弱まっている気がしますよね。

逆に、ネガティブなルール支配行動を無理やり修正しにいこうとするのは難しいようです。例えば「しろくまの実験」といって「今から3分間しろくまについて考えないでください」というと次から次へとしろくまが脳内に出てきます。「ビールを飲まないようにしよう!」と思えば思うほどビールをプシュっと開ける感覚がありありと浮かんできて、そして結局ビール飲んじゃいますよね。
これらは言葉の世界で、同じ次元で戦っている状態なので距離がとれていないということになります。

逆に「あー、今自分ビール飲みたいって思ったな」とその気持を受け止めてあげて、そのままにしておくことが大事なようです。

つまり、自分の感情であれ、外で起こっていることであれ、まずは言葉による活動(バーチャルな現実)ではなく、事実を事実のまま受け止めることが大事だと言うことです。

受け止めて、距離をとる。

ACTではマインドフルネス含め、このトレーニングがいろんなレパートリーであります。例えばジャーナリングといって自分の感情をまずは文字に書き留めることで客観的になる、という方法もあります。

当社のサービス「Awarefy」では、このジャーナリングに近い、起こったできごとと浮かんだ感情をラベリングし、それを並べてみることで客観的になれる「感情メモ」という機能を搭載していたり、瞑想の音声ガイドを展開していますが、これらは「言葉と適切に距離を取るためのトレーニング」であると言うことができますね。

こうやって言葉の世界から距離をとると、それだけで少しストレスが緩和されることも知られているくらい、受けて止めて距離を取ることは強力な方法のようです。

Awarefyに限らず、マインドフルネスアプリ充実しているのでご興味ある皆さんはぜひ試していただければと思います。


言葉や思考から距離をとって、それからどうするの?

言葉が生きづらさを生み出す要因になっていること、そしてそこから適切な距離をとるとよい、というのは分かったけど、その上でどう生きていけばよいのか?

ACTでは親切にもそこまで踏み込んで理論化されています。それが「価値」と「コミットメント」呼ばれるものです。

「価値」は日本語の「価値観」とちょっと違うニュアンスなのですが「進みたい方向」というイメージだそうです。

不確実な世の中で、中長期の目標設定ってなかなか難しいと思うのですが、それでも普段の活動の中で「こういう活動しているとわくわくする」とか「こういうことをしているときに元気がでる」というものがあると思います。

そういった「わくわくする方向性の活動」を増やしていけば、人生はおのずと充実したものになっていく、ということです。つまり価値とはいわば進む方向を指し示してくれているコンパスみたいなものだと言われています。

最初にACTを勉強していた時、この「方向性」を見つける(価値)ということと、その方向性に沿った行動をする(コミットメント)ということが、元々は病気の治療として作られたACTという心理療法の中に組み込まれているのが個人的にはとっても面白いなと思いました。

このACTという単語自体が「行動する」という意味であることのすごく大事なポイントなのだと思います。言葉の世界はどうあれ、とにかく自分にとってワクワクする行動を増やしていこう!みたいな力強さを感じます。

自分の「価値」を発見するワークもいろんな方法論がたくさんの研究者によって開発されていたりしますので、アプリにも実装していきたいですし、ワークショップ的にぜひ取り組んでみたいと思っています。



自分のコンパスが指し示す方へ


自分自身、就活に関する事業に長く携わってきたのですが、何百人と話してきた就活生の中で「やりたいこと」が明確な人ってほとんどいませんでした。でもそれは「どんな業種の仕事にするのか」とか「目標をどこにおくのか」といった話だと思います。

それって、経験したことがない中で自分なりの答えを持つのってかなり難しいことな気がしますよね。それよりも、自分が大事にしたい価値、つまりどんなことをしている時に元気がでるのか、ワクワクするのか、ということを自分なりに理解しておくことが大事なのではないかと思います。それが実現できる仕事であればとりあえずは何でも良いのではないかと(だってわからないし)。という柔軟なスタンスで企業を探すとまた違った視点で探せるようになってくるかもしれません。

Yoasobiの群青の歌詞にこんな一節がありました。

知らずしらず隠してた
本当の声を響かせてよ、ほら
見ないフリしていても
確かにそこにある


価値は意識して作るものではなく、自分の心に「ある」ものなのかもしれません。言葉で作られたバーチャルな世界から抜け出し、自分にとっての「価値」を見つけて自分の人生のコンパスにする(どこに向かえばよいか教えてくれるものにする)、そして時に厳しい現実と向き合いながら社会と折り合いをつけ、自分の人生を生きる。その方法論をACTは指し示してくれているように感じます。

社会が多様化して、自分の生きる道を自分で「発見」しなくてはいけない時代。しかも、進化が早く、5年後がどんな未来になっているか想像もつかない。そんな中で「目標」という具体的で固定化された目的地をいきなり決めるより前に、もっと柔軟に行動する方向性を決められる自分のコンパスを持っておくことはますます重要になっていくのではないでしょうか。

これからもHakali社はAwarefyを通してACTのエッセンスを使いやすい形で利用できるような開発を行っていきますし、一人ひとりが自分の価値に気づき自分らしい人生が送れるようなサポートをしていきたいと思っています。ディスカッション等ご興味ある方はお気軽にお声がけいただけると嬉しいです!

■参考文献
マインドフルネス そしてACTへ
ACTにおける価値とは
よくわかるACT
ACTハンドブック

■プロフィール

小川 晋一郎
(おがわ しんいちろう) 

東京大学工学部システム創成学科卒業後、株式会社リクルートへ入社、HRカンパニー (現リクルートキャリア) で営業・コンサルタント・データサイエンティストとして事業に従事。2014年に株式会社ビズリーチに転職し、転職サイト「ビズリーチ」事業のデータサイエンティスト、プロダクトマネージャーを経て新卒事業部長として「ビズリーチ・キャンパス」事業を立ち上げる。2018年にクラウド電子カルテを展開するきりんカルテシステム株式会社にCMOとして経営参画。2019年株式会社Hakali 代表取締役CEO に就任。2020年5月にセルフケアアプリAwarefyをリリース。

■お知らせ

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