シンメトリー婦人と過ごす秘密の夜会。-三宅弘晃-

「写真を撮る」という行為は「今ここ」を感じて切り取る、マインドフルネスな行為。この連載では、そんなふうにマインドフルネスに生み出された写真とその写真にまつわるストーリーをご紹介しています。

 「左右対称」の異名を持つシンメトリー婦人は、毛足の長いファブリックソファからゆっくりと立ち上がると、紫に光るきらびやかなドレスを揺らしながら、屋敷に集まった紳士淑女達に語りかけた。

 「人類の歴史において、『左右対称』ほど美しく、崇高で、完璧な景色は他に類を見ませんことよ。その証明に、玉座はいかなる時代も左右の景色が対を成すように作られているじゃありませんか。あらゆる線の先端が示す消失点の存在こそが、この世における最も高貴な威厳を象徴しているのです」

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 「御覧なさい。偽りの愛と欲望が渦巻く混沌とした夜の歓楽街ですら、まるで星が整然と列を成したかのような秩序を湛えているではありませんか」

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 「貴方達が毎日使うステイションだって、左右対称に見れば、まるで勇敢な剣闘士が闘技場に向かうために通る細い通路のよう」

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 「流行りのホワイトカラー達が、残業を終え後にするビルヂングの様子も、左右対称に作られればこそ。彼らが溜め込んだ毒をそこいらで吐き散らかさない最低限のヒューマニティを保つのに貢献しているわ」

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 「そう。左右対称には王道を行く者が誇りを保つための不思議な力があるの。辛い辛いなんて喚いてるばかりじゃ、心に皺が増えるだけ。なんて、かつて偉大な哲学者が言っていたわ。だから貴方も、身の回りの左右対称を探すくらいの余裕を持つこと。これが、誇り高く生きる秘訣ね。……と、だんだん夜も更けてきたわね。それではみなさん、良い夢を」

三宅弘晃
キャリアコンサルタントカメラマン
キャリア心理学を応用し、その人の魅力あふれるポートレート撮影を行なっております。活動テーマは「モヤモヤを、イキイキに。」

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